ルーベンス『ヴィーナスとアドニス』を解説~止めて、行かないで…

はじめに

今回はメトロポリタン美術館所蔵、ルーベンスの『ヴィーナスとアドニス』を解説していきます。

メトロポリタン美術館、Wikipediaより引用

ルーベンスとは?

ピーテル・パウル・ルーベンス(1577~1640)はフランドルの画家

『自画像』(ルーベンス、1623年、オーストラリア国立美術館)

画家の他にも大工工房の運営や外交官としても活躍。多彩であったことでも知られています。彼の作品についてはこちらも参考にしてください↓

『ヴィーナスとアドニス』解説

ヴィーナスとアドニスとは?

あるとき、ヴィーナスは自身のこであるクピド(キューピッド)からキスを受けてしまいます。するとクピドが背負っていた矢筒から一本の矢が飛び出てきて彼女の胸をかすめます。恋がしたい状態に陥ったヴィーナスの前を横切ったのが人間であるアドニス

『ヴィーナスとアドニス』(カラッチ、1595年、プラド美術館)

それ以来、ヴィーナスはアドニスに付きまといます。狩猟が好きだったアドニスは常に森や山で走り回っておりヴィーナスはこれが心配。凶暴な動物には何度も何度も注意します(この時点で話のオチが見えてくる…)

『ヴィーナスとアドニス』(ティッツァーノ、1554年、プラド美術館)

実はヴィーナスにはもう一人恋人がおり、それが軍神マルス。自分のことを顧みないヴィーナスに不満を抱いており、イノシシに変身してアドニスを殺すことにします

『アドニスの死』(Giuseppe Mazzuoli 、1709年、エルミタージュ美術館)

狩りにやってきたアドニス。マルスは牙で彼に致命傷を与えます。さらにマルスは白薔薇の棘をヴィーナスに向けて仕掛け、彼女はこれを踏んでしまいます。もともと薔薇はヴィーナスの成木で白い色しかつかなかったのにこれをきっかけに赤い薔薇も咲くようになったと言われています。

『アドニスの死を悲しむヴィーナスとクピド』(ホルステイン、1656年、フランス・ハルス美術館)

『ヴィーナスとアドニス』解説

狩りに出かけようとするアドニスを止めるヴィーナスとクピド。アドニスのためらいというのがこの足元の天使によって上手く描き出されています。ちなみにヴィーナスは「愛欲」、クピドは「愛」を表します。

『ヴィーナスとアドニス』(ルーベンス、1638年、メトロポリタン美術館)

物の三角形の構図ができており絵自体の美しさにも目が引かれるのですが、クピドとヴィーナスの間に二人が恋人になったきっかけとなったクピドの矢があったりと描きこみも細かい。猟犬がいるのも良いですね。

もう一点、面白いのはヴィーナスに当時の女性の理想像や特徴が表れているという点(ルーベンスがモデルを用いて描いていたので)。例えばヴィーナスの二重顎は女性らしい優しさとして好まれており、実際はそうでもないのにそう描くように依頼する注文主もいたほど。

右足の親指が曲がっているのは見えるでしょうか。これは当時の女性が7、8センチの高さの靴を履いていたことが原因と考えられます。

参考文献

この記事は『中野京子と読み解く 名画の謎 ギリシャ神話篇』(中野京子)を参考にしています。

興味を持った方は是非。

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