プッサンの『アルカディアの牧人』を解説~均整美

はじめに

今回はルーブル美術館所蔵、プッサンの『アルカディアの牧人』を解説していきます。

ルーブルの東ファサード

『アルカディアの牧人』解説

アルカディアとは?

「アルカディア」とはギリシャのペロポネソス半島にある高原の地名で、古代から牧人たちの理想の黄金郷としてイメージされてきました

現在のアルカディア

今回紹介するプッサンの他にも、多くの画家がモチーフとしてきました。

トマス・コールの連作絵画「帝国の推移」より『牧歌的な状態』(1834年、ニューヨーク・ヒストリカル・ササイエティ)
『アルカディア』(トマス・エイキンズ、1883年頃、メトロポリタン美術館)

『アルカディアの牧人』解説

解釈

羊の群れを追いたてる杖を持った三人の牧人が、大きな石棺を囲んでいます。そこにはラテン語で「Et in Arcadia ego」(エト・イン・アルカディア・エゴ)と刻まれています

三人の中で右側にいる男は右手前にたたずむ優雅な女性にその意味を尋ねるようなポーズをとっています。謎めいたこの女性は森に住むニンフ(精霊)の化身だとも言われており、彼女は牧人の肩に手をかけて、静かにその問いに答えているようにも見えます

『アルカディアの牧人』(プッサン、1638-39年、ルーブル美術館所蔵)
均整さの中にもフランスらしい華やかさの様なものを感じませんか?

この石棺には二つの読み方があり、一つは「私はアルカディアにもいる」、もう一つは「私もかつてはアルカディアいた」という意味です(ラテン語って難しそうですね)

前者においては「私」が「死」を意味しており、「楽園であるアルカディアにも死は存在する」、つまり「死を忘れてはならない」という教訓として解釈できます

一方、後者においては「私」とは石棺の主のことであり、彼もまたかつてこの楽園で充実した生を謳歌したことがあったという解釈となります

特徴

この絵を描いたプッサンは静かな構成とデッサンを重視していました

プッサンはその修業時代から人生の大半をイタリアで過ごし、「フランスのラファエロ」と呼ばれました。ルネサンスの古典主義に傾倒し、それをフランスに移植した画家と言うことが出来ます

17世紀の芸術はバロックと呼ばれ、ルーベンスやフェルメールに代表される激しい感情やドラマチックな明暗表現が特徴ですが、この絵、そしてプッサンの一連の絵画では画面は水平と垂直の軸によって揺るぎ無く構成されています。特にルーベンスと比較してみると、その均整さが際立つのではないでしょうか

『パエトンの墜落』(ルーベンス、1604-05年、ワシントン・ナショナルギャラリー)
『牛乳を注ぐ女』(フェルメール、1658-60年、アムステルダム国立美術館)

参考文献

『西洋美術101鑑賞ガイドブック』(神林恒道、新関伸也編)

非常に読みやすい本なので、興味を持った方は読んでみて下さい。