ジェローム『仮面舞踏会後の決闘』を解説~偉人と決闘とピエロ

はじめに

今回はエルミタージュ美術館所蔵、ジェロームの『仮面舞踏会後の決闘』について解説していきます。

エルミタージュ美術館、Wikipediaより引用

ジェロームとは?

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『仮面舞踏会後の決闘』解説

決闘の文化

作曲家ヘンデル、鉄血宰相ビスマルク、詩人バイロン、画家マネなども決闘の体験者。

ヘンデル

決闘には厳格な作法や手順が決められていました(挑戦するには手袋を投げつけ相手がそれを拾ったら応諾、両者は同じ階級同士でなければならない等)。立会人を付け、第三者的な証人を依頼するというのも代表的なものです。

ビスマルク

決闘はゲルマン社会における合法的裁判の一形式でした。15世紀末にフランスで「名誉のための決闘」が始まると、全ヨーロッパ、アメリカにまでも普及します。決闘用ピストルを常備するホテルまであったほど。

バイロン

鉄砲の場合、撃てる弾数が決まっているなど、両者が死ぬまで戦うという訳ではありませんでしたが常に死の危険が付きまとうことには違いありません。この文化が20世紀の初頭まで続いたというのだから驚きです。

マネ

『仮面舞踏会後の決闘』解説

まるで舞台のワンシーンのような本作。ジェロームの巧みな絵筆は見るものの想像力を刺激してやみません。

ピエロ姿の若者は斑な白い化粧の下で無念の形相を見せています。右手はまだ剣を放しませんが左手の指は命の欠片を掴もうと痙攣し、両脚の先からはすでに死が這いのぼってきます。

ピエロ以外にも全員が仮装しています。中国人、インディアン、アルレッキーノ、16世紀の貴族、頭を抱え絶望する男はおそらく司祭です。この出来事が仮装パーティーの後に起こったことがわかります。

『仮面舞踏会後の決闘』(1857年、エルミタージュ美術館所蔵)

画面右側でこの場を立ち去ろうとしているのは決闘の勝者。彼にも喜びはなく、友人の慰めにもかかわらずうつむいて重い足取りです。遠景には彼らの馬車がうっすらと見えています。

当時のピエロは純粋無垢でロマンティックな存在、報われぬ芸術家、哀れな恋する男の象徴。その背景には19世紀の天才役者、ドビュローの演じた「悲しきピエロ」「嘆きのピエロ」像がありました。

『ドヴュローの肖像』(1830年、Auguste Bouquet)

これらのイメージはどれも青春と分かちがたく結び付いています。若者は純粋ゆえに、ロマンティシズムゆえに、社会で報われぬゆえに、恋に走り、愚行に走り、痛ましくも自滅する。

この絵がジェロームお得意の歴史大作でなく比較的小さな風俗画なのにも関わらず、人気を博し、絵の中の若者が殊更悲劇的に感じられるのも、鑑賞者が自分の若き日々に思いを巡らし感情移入してしまうからなのかもしれません。

参考文献

「怖い絵」でおなじみ、例のあの方の本

今回参考にしたのは「こわい絵」シリーズで有名な中野京子さんの『名画の謎 陰謀の歴史篇』です。もっと詳しく知りたい、という方は是非ご覧ください。