ギュスターブ・モローの『オルフェウス』を解説~歌う生首

はじめに

今回はオルセー美術館所蔵、ギュスターヴ・モローの『オルフェウス』について解説します。

オルセー美術館、Wikipediaより引用

ギュスターヴ・モローとは?

ギュスターヴ・モローとは?

ギュスターヴ・モロー(1826-1898)は知的ブルジョワ家庭出身で、イタリア留学で多くのことを学びました。

外界をありのままに再現しようとする同時代の印象派の画家たちとは一線を画し、神話や誓書をテーマに幻想世界を造り上げました。

「見えないもの、感じるものだけを信じる」という言葉を残しています。

『オルフェウス』解説

いかにしてオルフェウスは生首となったか

愛妻を冥界から連れ戻すことに失敗したオルフェウス(以下の記事を参照してください↓)。

http://gemeinwohl.jp/2019/05/07/%e3%82%ab%e3%83%9f%e3%83%bc%e3%83%a6%e3%83%bb%e3%82%b3%e3%83%ad%e3%83%bc%e3%81%ae%e4%bd%9c%e5%93%81%e8%a7%a3%e8%aa%ac%ef%bd%9e%e3%80%8e%e3%82%aa%e3%83%ab%e3%83%95%e3%82%a7%e3%82%a6%e3%82%b9%e3%80%8f/

妻を二度も死なせてしまったオルフェウスは悲嘆にくれ、女性を一切寄せ付けなくなります。

すると、相手にされないトラキアのバッカスの巫女たちが怒り、彼に石をぶつけて殺し、狂乱状態の中で八つ裂きにして、頭部と竪琴をヘブロス河へ投げ入れてしまいます。

『オルフェウスの死』(1494年、デューラー)

河を下りながら首は歌をうたい、竪琴は楽を奏で続けます。

『オルフェウスの首を見つけるニンフ達』(ウォーターハウス、1900年)

やがて岸辺にたどり着いた首は葬られ、竪琴はゼウスないしアポロンによって星座へと引き上げられました。

『オルフェウス』解説

死してなお歌い続ける首のイメージは芸術の永遠性を示していると考えられます。モローは神話の中では脇役にすぎないトラキアの乙女を絵のヒロイン役に据えることで、芸術を理解するものも讃えていると言えます。

『オルフェウス』(1865年、オルセー美術館所蔵)

遠くの岩山にいる牧人のひとりが、笛を吹いており、画中から音楽が聞こえてくるかのようです。

「切られた首」は世紀末芸術(19世紀)の一大ブーム。 ユーディトによるホロフェルネウスの首、サロメによるヨハネの首、ダビデによるゴリアテの首などが繰り返し主題となっていましたが、モローの本作を契機として、以後オルフェウスの首もその仲間入りを果たしました。

『ユディットⅠ』(クリムト、1901年、ベルヴェデーレ宮殿所蔵)
『出現』(モチーフはサロメ)(モロー、1876年)
『ゴリアテの頭を持ち上げるダヴィデ』(ギュスターヴ・ドレ、1866年)

クリムトのユディットについてはこちらの記事もご覧ください↓

http://gemeinwohl.jp/2019/04/14/1646/

参考文献

中野京子 名画の謎

『中野京子と読み解く 名画の謎 ギリシャ神話篇』(中野京子)

興味を持った方は是非読んでみて下さい!