サルバドール・ダリの『記憶の固執』を解説~時計が溶ける

はじめに

今回はニューヨーク近代美術館所蔵、サルバドール・ダリの『記憶の固執』について解説していきます。

ニュ―ヨーク近代美術館
ダリとペットのオセロット
髭が何とも印象的です

『記憶の固執』解説

ダリはロシア人の妻、ガラ・エリュアールがキッチンで食べていたカマンベールチーズが溶けていく様子を見て「溶けている時計」のインスピレーションを得たと語っています。

ガラの肖像画(ダリ、1944年、Wikipediaより引用)

この作品を描く前年、ダリは「偏執狂的批判的方法」という、二つの異なるイメージが無意識に重なって見える状態を表現する手法を確立していました。この絵では「進行する時間」と「溶けていくカマンベールチーズ」が彼には重なって見えていたと考えられます。

『記憶の固執』(ダリ、1931年、ニューヨーク近代美術館所蔵)
画面左にある色のついた時計には蟻が集っており鳥肌ものです。
ダリにとって蟻は「腐敗」や「死」を意味していました

この作品について多くの評論家が指摘しているのはダリが性的なコンプレックスを持っていたということで、一説にはEDだったともいわれています。固いはずの時計が溶けるのは「萎える」「衰える」ことに対する恐れを物語っているとのことです。

この絵の中央にいる白い生物はダリ自身を表す自画像で他の作品にも登場します。白い生物は常に目を閉じていて眠っていて、夢を見ているとされています。

背景に描かれているのは故郷カタルーニャ地方で両親の別荘から見たパニ山脈の風景。性的コンプレックスやトラウマ、そして幼少時代の思い出など、いかにもダリの深層心理をわかりやすく反映している作品といえます。

参考文献

この記事は『武器になる知的教養 西洋美術鑑賞』(秋元雄史)を参考にしています。

西洋美術に興味を持った方は是非読んでみて下さい。