はじめに
今回はウィーン美術史美術館所蔵、ブリューゲルの『バベルの塔』について解説します。
バベルの塔とは?
バベルの塔とは?
旧約聖書『創世記』に登場する塔のことです。
ノアの曾孫の代に「全地の表に散らばる」ことを避けるために人々は天まで届く非常に高い塔の建設を目指します。
しかし、人間の分際で天まで届く塔を作ろうとする傲慢さに神が激怒。二度とそんな真似ができないよう、人々の言語を乱し、コミュニケーションが取れないようにした上で各地に散らばらせてしまいました。
場所は?
旧約聖書には「シナルの地」と記されており、これは古代メソポタミアのバビロニアのこと。現在のイラクに当たります。
実在するのか?
あくまで物語上のものなので、実在しません。ただ、ジッグラトという日干し煉瓦によって組み上げられた人口の小山のような聖塔の跡が現在でも残っており、バベルの塔のエピソードのモデルとなったと言われています。
ブリューゲル
ブリューゲル展
さて、今回紹介するブリューゲルの『バベルの塔』は、2017年に開催された「バベルの塔」展にも展示され…ませんでした笑。ブリューゲルはバベルの塔の絵を3枚描いており、日本に来たのはそのうちの一枚。ウィーン美術史美術館にある方が完成度が高いと言われていますので、是非観に行ってってみてください。
代表作
ブリューゲルの代表作と言えば、先にも述べたようにバベルの塔ですが他にも、ことわざをネーデルラントのことわざを絵にした『ネーデルラントのことわざ』(ベルリン美術館所蔵)などがあります。
ウィーン美術史美術館に所蔵している『農民の婚礼』『雪中の狩人』なども有名です。
特徴
ブリューゲルの特徴は歴史的事件を画家の生きている時代の土地・風俗で描いている点です。『バベルの塔』でも手前の石切り場にいる人々の服装は当時のネーデルラントのものです。
『バベルの塔』解説
何が描かれているか?
まず、画面中央にある巨大な塔がバベルの塔です。塔の各階で作業をしている人が見え、建設中であることが分かります。ところどころにある建築機械は、ブリューゲルが生きていた時代に実際に使用されていたものです。
右側手前には港湾風景が広がっています。これは当時のアントワープ(ベルギーの都市です。フランダースの犬で主人公が目指した教会があります)の港を参考にして描かれたと言われています。
左手前にいるのは王様。石工たちが膝を折って手を合わせています。
注目点
何と言っても注目点はその細密描写でしょう。
ブリューゲルは大建造物の建築工程を極めて正確に描写しています。彼が生きたアントワープは国際都市だったため、ひっきりなしに大工事があり、そのスケッチがこの絵にも生きていると考えられます。写真のなかった時代によくここまでのリアルさを出せたものだと驚くばかりです。
存在感もあります。
皆さんこの絵はどれくらいの大きさだと思いますか。なんと、実際には114×155センチしかない笑。それにも関わらず、圧倒的迫力、なまなましい実在感、複雑な構成、大きなスケール感。頭がおかしくなりそうです。
参考文献
「怖い絵」の中野京子さん
今回参考にしたのは中野京子さんの『中野京子と読み解く 名画の謎 旧約・新約聖書篇』です。聖書の知識を持っておくことは西洋絵画のみならず、映画や文学の鑑賞の際には必須です。いきなり聖書を読んで訳が分からなくなりそうな人には最初の一冊としておススメです。