ジョルジョーネ『眠れるヴィーナス』を解説~ドレスデン国立絵画館

はじめに

今回はドレスデン国立絵画館所蔵、ジョルジョーネの『眠れるヴィーナス』について解説していきます。

ドレスデン国立絵画館、Wikipediaより引用

『眠れるヴィーナス』解説

作者は?

『眠れるヴィーナス』の作者は、ジョルジョーネ(1477-1510年)というイタリアの画家です

『ダビデとしての自画像』(ジョルジョーネ、1508年頃、アントン・ウルリッヒ公爵美術館)

ジョルジョーネは16世紀に活躍したヴェネツィア派の巨匠で、盛期ルネッサンス様式を確立した画家です

ペストで30歳あまりの若さでこの世を去ったため、ヴェネツィアのジョヴァンニ・ベッリーニの工房で修業を積んだというヴァザーリの伝記以外には、その略歴はほとんど知られていません

代表作は、今回紹介する『眠れるヴィーナス』の他に、『嵐(テンペスタ)』『三人の哲学者』などがあります

『嵐(テンペスタ)』(ジョルジョーネ、1508年頃、アカデミア美術館)
『三人の哲学者』(ジョルジョーネ、1508~09年頃、ウィーン美術史美術館)

『眠れるヴィーナス』解説

黄昏時の美しい田園風景を背景に、裸身の女性が眠っています。草むらには赤いクッション、あるいは脱ぎ捨てられた衣装と寝乱れたような褥が描かれています。ヴェネツィア派の表現技法の特徴である、柔らかな曲線と豊かな色彩で絵が空かれたヴィーナスは官能的で、人間の感覚や感情に直接働きかけてきます

ヴィーナスの美しさはさることながら、「なぜ、ヴィーナスが戸外であられもない姿で眠っているのか」という疑問が生じる、なんともシュールな絵です

『眠れるヴィーナス』(ジョルジョーネ、1500~11年、ドレスデン国立絵画館)
横たわる女性の原型となった本作。西洋絵画というのは聖書や神話など基本的は日本人に馴染のない世界なので何が描いてあるか分からず、ある程度のシュールさはスルーしてしまうのですが、田園風景の中で美しい女性が裸で眠っているという状況は、少なくとも今の感覚から言うと確かに異常です。

このヌードはなにかの物語とは関係なしに、その裸体の美しさを鑑賞すための「自己目的としての裸婦」であり、近代のマネやルノワールにつながる、横臥する裸婦のアーティスティックな系譜の始まりだと位置づけられてきました

『オランピア』(マネ、1863年、オルセー美術館)
ジョルジョーネの絵と比較してみるとマネの平面性が際立ちます

その一方で、卑俗な解釈としては、ヴィーネスにちなんで、愛と多産を願った祝婚の絵画、あるいわ寝室を飾る、私的な楽しみのためのエロチックな鑑賞画に過ぎないという風俗史的な見方もあります

参考文献

『西洋美術101鑑賞ガイドブック』(神林恒道、新関伸也編)

西洋美術に興味を持った方は読んでみて下さい。