ウォーターハウスの『ヒュラスとニンフ』を解説~マンチェスター市立美術館

はじめに

今回はマンチェスター市立美術館所蔵、ウォーターハウスという画家の『ヒュラスとニンフ』について解説していきます。

マンチェスター市立美術館、Wikipediaより引用

ウォーターハウスとは?

ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス(1849~1917)はヴィクトリア朝時代の画家で神話や文学を題材にした作品を多く残しました。作風はロマンティック。

中でも特にオフィーリア・シャーロット・人魚などをモチーフにしたものが有名です。

オフィーリア

オフィーリアとはシェイクスピア四大悲劇の一つ『ハムレット』の登場人物。悲劇のヒロインの代名詞的存在です。

1889年、個人蔵
1894年
1910年、個人蔵

オフィーリアについてはこちらの記事も参考にしてみて下さい↓

シャーロット

シャーロットとはアーサー王物語の登場人物で、騎士ランスロットの愛を得られぬことを知ったばかりに死を選ぶ乙女

1888年、テート・ブリテン所蔵
1894年、リーズ美術館所蔵
1916年、アート・ギャラリー・オブ・オンタリオ所蔵

人魚

1900年、ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ
世界観はいかにもハリーポッターといったところ

『ヒュラスとニンフ』解説

ヒュラスとは?

ヒュラスとはヘラクレスにつかえる美少年

ヒュラスとニンフ、3世紀、個人蔵

ヘラクレスは皆さんご存知の通りギリシア神話に登場する英雄。様々な怪物との死闘を繰り広げました。

『ヘラクレスの死』(フランシスコ・デ・スルバラン、1634年、プラド美術館)

そのヘラクレスとヒュラスですが、アルゴ船という船の一員となります。アルゴ船とは、イアソンという都市国家イオルコスの王位継承権を持つ男が、コルキス王の宝「金羊毛」を奪って王になるための遠征に使った船のことです。遠征の際にはヘラクレスとヒュラスの他にも黄泉の国のエピソードで知られる竪琴の名手オルフェウスやミノタロスを退治したテセウスなど錚錚たるメンバーが集められます。

アルゴ船(ヨハネス・へヴェリス)
雰囲気がワンピースみたいですね

豪華な船員を伴って船出。出発時は嵐だったものの二週間ほどで凪ぎ、アルゴ船は清水を求めて島に上陸します。ヘラクレスとヒュラスも水差しを持って森の中に入っていきます。そこでヒュラスがたどり着いたのは…

『ナイアド(ヒュラスとニンフ)』(ウォーターハウス、1893年、個人蔵)

『ヒュラスとニンフ』解説

睡蓮の咲く美しい池にたどり着いたヒュラス。水を汲もうと屈みこんだところに現れたのがニンフ達でした。

ニンフとは精霊、語源は「花嫁」や「人形」。美しさ持ちながらもどこかしら不気味さも持ち合わせているということでしょうか。

真水に住むニンフはナイアスと呼ばれており、ヒュラスの美しさに惹かれ姿を現します。

『ヒュラスとニンフ』(ウォーターハウス、1896年、マンチェスター市立美術館所蔵)

ナイアスの一人が既にヒュラスの腕をしっかりとつかんでおり池の中に引き込もうとしています。画面手前のナイアスも彼に手を伸ばそうとしています。

一方のヒュラスは驚いてはいるようなものの、抵抗するわけではなくずるずると池の中に入ってしまいそうな様子。ハッとして動けなくなってしまった瞬間の脱力感、頭が真っ白になる感じがよく捉えられている絵画だと個人的には思います。

その後どうなったのかというと、ヒュラスは池に落下。その際悲鳴を上げ、それを聞いた仲間の一人がヘラクレスに告げ、ヘラクレスが島中を探し回りますが結局見つけることはできず。ヒュラスはヘラクレスの前から永遠に姿を消したのでした…

参考文献

この記事は『中野京子と読み解く 運命の絵』(中野京子 2017 文藝春秋)を参考にしています。

興味を持った方は手に取ってみて下さい!