ハーバート・ジェームズ・ドレイパーの『オデュッセウスとセイレーン』を解説~フェレンス美術館所蔵

はじめに

今回はフェレンス美術館所蔵、ハーバート・ジェームズ・ドレイパーの『オデュッセウスとセイレーン』を解説していきたいと思います。

フェレンス美術館、Wikipediaより引用

ハーバート・ジェームズ・ドレイパーとは?

ハーバート・ジェームズ・ドレイパー(1863〜1920)は、古典偏重の美術界に異を唱えたラファエル前派の一人です。ロマンティックで幻想的な作風が特徴。ラファエル前派についてはこちらも参照↓

『オデュッセウスとセイレーン』解説

オデュッセウスとセイレーンとは?

オデュッセウスとはギリシャ神話に登場する英雄です

絶世の美女でありスパルタ王妃のヘレネがトロイアの王子パリスに心を奪われ、スパルタ王が妃を奪還するために勇者たちへ呼び掛けたことから始まったトロイア戦争、この戦争はオデュッセウス発案の「トロイアの木馬」作戦でスパルタ側の勝利。ギリシャの戦士達は帰路に着きます。

『トロイアの木馬の行進』(ティエポロ、1760年、ロンドン・ナショナルギャラリー)

オデュッセウスも部下を引き連れ故郷イタケへと出発しますが、これが色々とあり10年間の漂白の旅となります。旅の中ではロートバゴス、キュクロプス、アイオロス、ライストリュゴン、キルケなど様々な怪物たちと出会います。

『キュクロプス』(ルドン、1914年、クレラ・ミュラー美術館)
『オデュッセウスに杯を差し出すキルケ』(ウォーターハウス、1891年、オールダムギャラリー)

↓こちらもご覧下さい

セイレーンもその中の怪物の一種。美しい歌声で船乗りたちを没我状態にし、海へ飛び込ませて溺れさせたり船を岩礁へ衝突させる海の魔女です。

アテネ国立考古学博物館、Wikipediaより引用

セイレーン対策は耳に蜜蝋を詰め、一切声を聞かないようにするというもの。オデュッセウスもあらかじめ防方法は知っていたのですが、どうしてもセイレーンの歌声が聞きたくなってしまい、部下たちに自分は耳栓をしないから何があってもマストへきつく身体を縛りぬけておくようにと命令します

『セイレーンたち』(ギュスターヴ・モロー、1885年、ギュスターヴ・モロー美術館)

セイレーン島へ近づくオデュッセウスの船。美しい歌声が聞こえてくるとオデュッセウスは縄をほどこうと暴れだします。必死で押さえつける彼の部下たち。他のものたちは懸命に船を進めます。そうした部下たちの努力もあって何とかセイレーンの領域を抜け出すことが出来ました。

『オデュッセウスとセイレーンたち』(ウォーターハウス、1891年、ヴィクトリア国立美術館)

『オデュッセウスとセイレーン』解説

セイレーンの歌声に狂気に陥るオッデュッセウスとパニック状態の船の様子を描いた本作。セイレーンが乗り込んで来ているだけに余計に恐怖を感じます。マストに締め付けられたオデュッセウスの表情が印象的です。完全に逝っちゃてます。

『オデュッセウスとセイレーン』(ドレイパー、1909年、フェレンス美術館)
ハリー・ポッターで出てきそうなワンシーン。躍動感を感じます。部下たちに表情が頼もしい。

セイレーンは三人(三匹?)。一番右の女が下半身が魚なのに対して、右の二人は下半身が魚となっています。どうせ魚なのだから上がってきても身動きとれないだろ…と高を括っていたら足が生えてくる絶望感。果たしてこの絵の設定では部下たちはどうやってセイレーンを振り切ったのでしょうかね?

参考文献

この記事は『怖い絵 泣く女篇』(中野京子)を参考にしています。

美術に興味ある方は是非。