幻想の画家オディロン・ルドンの『キュプクロス』を解説~クレラ=ミュラー美術館所蔵作品

はじめに

今回はクレラ=ミュラー美術館所蔵、オディロン・ルドンの『キュプクロス』を解説していきます。

クレラ=ミュラー美術館、Wikipediaより引用

オディロン・ルドンとは?

オディロン・ルドン(1840~1916)はフランスの画家で、世紀末の象徴主義の中で自己のヴィジョンを追求し続けた画家です

『自画像』(ルドン、1880年、オルセー美術館)

実は彼が生まれた1840年というのはモネやロダンが生まれたのと同じ年。世間を印象派が騒がせる中、ルドンは黒一色の木炭がばかり描いていました

『泣く蜘蛛』(ルドン、1881年、個人蔵)

それで象徴派の詩人、マラルメなどによって彼の作品は絶賛されます。ようやく60歳近くになって世間にも認められるようになり、作風も変化、色彩が現れ始めました

代表作

『眼=気球』(ルドン、1878年、ニューヨーク近代美術館)

『花と女性』(ルドン、1890-95年、ホノルル美術館)
『成分:花』(ルドン)
『トルコ石色の花瓶の花』(ルドン、1911年、個人蔵)
『花雲』(ルドン、1903年、シカゴ美術館)

『キュプクロス』解説

キュプクロスとは?

キュプクロス(サイクロプス)とはウラノスの子供たちの総称

エラスムス・フランスキの著書の挿絵

単眼の醜い巨人だったため父親から嫌われ長く地底に閉じ込められていたところをゼウスに救われます。その後、優れた鍛冶師となりゼウスの武器となる雷電を作ったりしていました。

『クロノスに去勢されるウラノス』(ジョルジョ・ヴァザーリ、クリストファーノ・ゲラルディ、1560年、ヴェッキオ宮殿)

今回紹介するルドンの絵に描かれているのはキュクロプスの一人、ポリュペポスです。

『ポリュペモスの洞窟のオデュッセウス』(ヤーコブ・ヨルダーンス、17世紀初頭、プーシキン美術館)

ポリュペモスはアイトナー火山の洞窟に住んでいたんですけど、海のニンフ(妖精)ガラテアに恋をしちゃいます。だけどガラテアにはもう人間のアキスという恋人がいました

嫉妬に狂うポリュペモスですが、ある日海でガラテアとアキスがいちゃついているのを目撃してしまいます

ガラテアとアキスとポリュペモス、パリのリュクサンブール公園

怒りに我を忘れたポリュペモスは巨大な岩を投げつけます。ガラテアはなんとか回避に成功しますがアキスは岩に下敷きになってしまいました

『キュプクロス』解説

本作はポリュポメスが岩陰で眠るガラテアをじっと見つめるシーン

『キュプクロス』(ルドン、1898-1900年、クレラ=ミュラー美術館)

ポリュポメスの行動をみても分かるように彼の行動はストーカーそのもの、今風にいうとパワー系ガイジといったところでしょうか。体は大人、頭脳は子供といったところで、ルドンの絵にのポリュポメスにもそんな悪い意味での幼児性が良く表現されていると思います。

ルドン自身も実は悲しい愛のエピソードの持ち主。兄が両親のもとで育てられていた一方で彼は生まれてすぐに里親に出されてしまい、11歳になるまで両親に会うことが出来ませんでした。その後家に帰っても親の愛を確信できなかったことは想像に難くありません。

そんな彼が叶わぬ愛を不器用に持ち続けてしまったキュプクロスに同情を抱き絵の主題に選んだと考えることは自然なことかもしれません。

参考文献

この記事は『怖い絵』(中野京子)を参考にしています。

興味を持った方は是非。