目次
はじめに
今回は百人一首No.56『あらざらむこの世のほかの思ひ出に今ひとたびの逢うこともがな』を解説していきます。
『あらざらむこの世のほかの思ひ出に今ひとたびの逢うこともがな』解説
作者は?
この歌の作者は和泉式部です。
和泉式部ってどんな人?
和泉式部とは、大江雅到(おおえのまさむね)の娘で、一条天皇の中宮彰子に仕えました。
代表作に『和泉式部日記』があり、これは敦道親王との恋愛をつづったものとなっています。
和泉式部と子式部内侍の関係は?
和泉式部は子式部内侍(こしきぶのないし)の母親です。彼女も母親と同様に一条天皇の中宮彰子に仕えたため、「子式部」と呼ばれるようになりました。
子式部の歌、「大江山いく野の道の遠ければまだふみもみず天の橋立」という歌も、百人一首のNo.60に収録されています。ちなみにこの歌は、普段母親である和泉式部に代作してもらっているという噂のたっていた子式部に対し、四条中納言が「お母さんに代作を頼む使者は出した?使者はもう帰ってきた?」と嫌がらせを言ってきた際に、子式部が当意即妙で返した歌です。
歌の意味
「あらざらむこの世のほかの思い出に今ひとたびの逢ふこともがな」の意味は以下のようになります。
「まもなく私は死んでしまうでしょう、あの世の思い出として、死ぬ前にもう一度あなたにお逢いしたいものです」
品詞分解
では、品詞分解をしていきましょう。
①あらざらむ
あら…ラ行変格活用の未然形
ざら…打消しの助動詞の未然形
む…推量の助動詞の連体形
意味は「生きていないであろう」となります。一番下の「む」が連体形となっているのは次の句の「この世」につながるからです。「私が生きていないであろうこの世」とつながっていきます。
②この世のほかの
こ…代名詞
の…格助詞
世…名詞
の…格助詞
ほか…名詞
の…格助詞
「この世」は現世のことです。なので、「この世のほか」とは「来世、死後の世界」の意味になります。
③思い出に
思い出…名詞
に…格助詞
「来世においての思い出に」の意味。
④今ひとたびの
今…副詞
ひとたび…名詞
の…格助詞
「もう一度」という意味です。ただ、ただ単に「もう一度」というよりも切迫感というか切実な印象を与えます。
⑤逢ふこともがな
逢ふ…ハ行四段活用の連体形
こと…名詞
もがな…願望の終助詞
「逢ふ」は特に男女の出会いについて用いられる語句です。「もがな」は実現性が低いことに対して用いられる「だったら良いのに」というニュアンスの終助詞。
言葉一つ一つとってみても、この歌の切ない切ない雰囲気は注意深く選別された言葉によって醸し出されているのが良く分かりますね。
参考文献
この記事は『シグマベスト 原色百人一首』(鈴木日出夫・山口慎一・依田泰)を参考にしています。
百人一首の現代語訳、品詞分解も載っています。勉強のお供に是非。