目次
はじめに
今回は百人一首のNo.67『春の夜の夢ばかりなる手枕にかひなく立たむ名こそ惜しけれ』を解説していきます。
『春の夜の夢ばかりなる手枕にかひなく立たむ名こそ惜しけれ』解説
作者は?
この歌の作者は周防内侍(すおうのないし)。十一世紀後半の人で本名は平仲子。
後冷泉天皇以下四代の宮廷に仕え、当時の多数の歌合に参加しました。
意味・現代語訳は?
『春の夜の夢ばかりなる手枕にかひなく立たむ名こそ惜しけれ』の意味は以下のようになります。
「春の夜の夢ほどの、はかないたわむれの手枕のために、何のかいもない浮名が立ったとしたら、なんとも口惜しいことです」
この歌は個人的に大好きです。
「手枕」とは腕を枕にすること。多くは男女共寝の相手の場合に言います。なんともロマンチックでかわいらしい言葉じゃありませんか。
実はこの歌の背景も甘美なんです。
二条院で人々が夜通し物語などをしていたときに、周防内侍が物に寄り臥して、「枕が欲しいものです」とそっとつぶやいたところ、それを聞いた藤原忠家が「これを枕に」と言って自分の腕を御簾の下からそっと差し出したそうです。その返答としてこの歌が詠まれました。こんなお洒落ないなしかたがあったでしょうか笑
「手枕」「春の夜」などいかにも桜の咲いた宮廷の夜のワンシーンが思い浮かべられる歌となっています。
品詞分解は?
①春の夜の
春…名詞
の…格助詞
夜…名詞
の…格助詞
②夢ばかりなる
夢…名詞
ばかり…副助詞
なる…断定の助動詞の連体形
③手枕に
手枕…名詞
に…格助詞
④かひなく立たむ(掛詞)
かひなく…形容詞のク活用の連用形、「甲斐なく」と「かひな(腕)」の掛詞
立た…タ行四段活用の未然形
む…仮定・婉曲の助動詞の連体形
⑤名こそ惜しけれ
名…名詞
こそ…係助詞
惜しけれ…形容詞のシク活用の已然形、「こそ」を受けて已然形になっています
参考文献
この記事は『シグマベスト 原色百人一首』(鈴木日出夫・山口慎一・依田泰)を参考にしています。
百人一首の現代語訳、品詞分解も載っています。勉強のお供に是非。