はじめに
今回はハンブルク美術館所蔵、エドゥアール・マネの『ナナ』について解説していきます。

マネとは?
マネとは?
エドゥアール・マネ(Édouard Manet 1832~1882)は、19世紀のフランスの画家です。
聖書や神話などの「架空の世界」を「三次元」で「もっともらしく」描く従来の絵画とは異なり、「現代生活」を題材に「絵画の二次元性を追究」したことで知られており、印象派やキュビズムを始めとした近代絵画への扉を開いた人物として重要視されています。
印象派の画家達を経済的にも支援するなど、直接的にも彼らに影響を与えていることでも知られています。
アンリ・ファンタン=ラトゥールの『バティニョールのアトリエ』(1870 オルセー美術館所蔵)には、マネのアトリエに、印象派の画家であるルノワール、バジール、モネらが集う様子が描かれています。

座って絵を描いているのはマネ、マネの右側に立ち前で手を合わせている帽子をかぶった人物がルノワール(ちなみにそのすぐ右側にいるのは小説家のエミール・ゾラ)。
画面右側で後ろで手を合わせ、キャンバスを見ているのがバジール。画面最右で半身だけ描かれているのがモネです。
マネの作品の特徴
彼の絵画の特徴は「リアルさ」を追求している点です。
ここで言う「リアルさ」とは「絵を写真の様に正確に描く」というより、「人々の生活をリアルに描く」という意味です。
聖書や神話といった高尚と見なされていたものよりも、娼婦や疎遠な人間関係など、当時のパリで顕在化しつつあった社会問題などが主なモチーフとなります。
遠近感を廃し、コントラストの強い色を平面に用い輪郭線を強調する技法など、日本の版画の影響が見られるのも特徴の一つです。
マネの代表的作品

裸の女性のモデルは、マネが好んで使っていたヴィクトリーヌ・ムーランだと言われている。

ティッツィアーノやゴヤの裸体画から受け継がれてきた西欧の様々なヴィーナス像の延長線上にある本作品。
神話や文学的な口実をはぎ取られた娼婦の絵は当時の美術界に強烈な拒否反応を巻き起こした。

単純で平坦な背景処理はベラスケスの影響だと言われています。奥行を排した二次元的で明るい画面は当時としては斬新でした。
マネとスペイン絵画
1860年代前半のマネの作品の多くはスペイン絵画からの影響が見られます。

1865年のスペインした、簡素な構成、簡潔なを用いた色彩や光の表現法など、ベラスケスやゴヤの絵画に示される「軽み」はらマネが追求する「モデルニテ」を描き出すための大きなヒントとなりました。
『ナナ』解説
「ナナ」とは?
「ナナ」とは、もともとは「アンヌ」や「アンナ」といった名前に対する愛称です。絵のモデルになっている下着姿の女性の名前が「アンリエット・オーゼル」というため、この愛称が付けられたと考えられます。
『ナナ』解説
物議を醸した『オランピア』から14年後、マネは再び高級娼婦の主題に取り組みます。こうしたテーマは1870年代後半から、ゾラをはじめとした自然主義文学者たたちが好んだモチーフでもありました。

この絵にも様々な性的なモチーフが取り入れられています。

鏡
西洋絵画に描かれる鏡は、伝統的に「虚栄」や「淫欲」を象徴し、鏡を前に化粧をする女は、ヴェネツィア派をはじめ、エロティックな主題を扱った多くの絵画に描かれてきました。
マネここでも伝統的な手法を使って近代的生活の一場面を表出しています。
鶴
『オランピア』に尻尾を立てた黒猫を描いたように、マネは本作の背景に性的な暗示をする鶴をさり気なく描き込んでいます。
この背景はマネのアトリエにあった織物で、『ステファヌ・マラルメの肖像』にも登場します。

下着
見ようによっては裸体よりも扇情的な下着姿で描かれた女性。まさにモードに敏感なマネの真骨頂東京都いえる描写です。
レースで縁とられたコルセットや花柄のストッキングは、産業革命によってもたらされた最新技術の賜物で、この時代、新しい下着が次々と新案特許として申請されていました。
参考文献
画家大友義博
『一生に一度は見たい西洋絵画 BEST100』(大友義博)
美術に苦手意識がある人はこの本から読みましょう。
『美術館の舞台裏』の著者高橋明也
『もっと知りたい マネ 生涯と作品』(高橋明也)
マネという画家、そしてその周辺の人々についてもっと詳しく知りたくなった方は読んでみて下さい。
西洋美術史の木村泰司
『印象派という革命』(木村泰司)
印象派の画家達について解説。交流関係など、ストーリー性があって読みやすいです。
オルセー美術館展 図録
『オルセー美術館展 図録』 2014年
2014年に開かれたオルセー美術館展の図録。もっと詳しく知りたい方は手に取ってみて下さい