はじめに
今回はワシントン・ナショナルギャラリー所蔵、エル・グレコの『ラオコーン』について解説します。
エルグレコとは?
エルグレコとは?
エル・グレコ(1541-1614)は、マニエリスムの代表的画家で、作品のほとんどが宗教画。
倉敷の大原美術館に『受胎告知』が所蔵されています。
『ラオコーン』解説
ラオコーンとは?
ラオコーンとは、ギリシャとの戦いで滅ぼされた古代都市トロイアの神官の名前です。
ギリシャとトロイアの戦争中、ギリシャの知将オデュッセウスが「トロイアの木馬」を発案。巨大な木馬の腹の中に兵を隠し、トロイア側の領地に置きます。
トロイア側はその木馬を敵が残した贈り物と考え、中に運び込もうとしますが、神官ラオコーンが敵の策謀を疑い、破棄するように警告します。
しかし、そのとき、アテネが放った二匹の大蛇が海から現れ、ラオコーンとその二人の息子に絡み付き、3人の息は絶えてしまいます。
『ラオコーン』解説
本作はグレコの描いた唯一の神話画といわれています。
ただならぬ雲のわく不穏な空のもと、中景の小高い丘を市壁へ向かって馬が走っていきます。恐らくこれは木馬でしょう。
周囲は戦乱どころかトロイアの風景でもなく、グレコが住むスペインの古都トレドの町並みです。
注目すべきはグレコ特有の奇抜な構図と人物の動き、そして現実離れした色使いです。
白髭の神官ラオコーンは倒れながらも蛇と格闘中。その右でぐったりと横たわる息子の命の火はすでに消えています。左の息子は棒立ちになり、しなう鞭のように湾曲する蛇を両手で必死に遠ざけようとしています。
青年の裸体のぎゅうと引き延ばされて、どこかしら揺らめく感じ、白い、ぬめっとした肌触り感は、独特の美とともに見方によってはいささか不快を覚えるという、不思議な味わいを持ちます。
画面右端の浮遊している人々がだれかはまだ分かっていません。ラオコーンと関係のある太陽神アポロンと月の女神ディアナとも言われていますが、アトリビュート(持ち物)もないため特定が出来ず。
蛇と格闘する瀕死の男たちの悲劇と感じられるかどうか、画面から発する強烈な個性に共鳴できるかどうかで作品の評価が分かれそうです。
太陽神アポロン(とヒュアキントス)についてはこちらを参照↓
月の女神ディアナについてはこちらを参照↓
参考文献
「怖い絵」でおなじみ、例のあの方の本
今回参考にしたのは「こわい絵」シリーズで有名な中野京子さんの『名画の謎 陰謀の歴史篇』です。もっと詳しく知りたい、という方は是非ご覧ください。