カラヴァッジオの『ナルキッソス』を解説~水仙が水辺に咲く理由

はじめに

今回はバルベリーニ宮所蔵、、カラヴァッジョの『ナルキッソス』を解説していきます。

バルベリーニ宮、Wikipediaより引用

カラヴァッジョとは?

カラヴァッジョとは?

ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ(1571-1610)は、17世紀に一世を風靡したバロック様式の先駆者。

絵の特徴としては、強烈な光と闇の対比、理想化を排した生々しい描写が挙げられます。

優れた画才を認めらながら素行不良で、最後は殺人を犯し、逃亡先で病死しました。

主な作品

『果物籠を持つ少年』(1593-94年、ボルゲーゼ美術館所蔵)
『ホロフェルネウスの首を斬るユディット』(1598-99年、バルベリーニ宮、カラヴァッジョ展2019)
『聖マタイの召命』(1599-60年頃、サン・ルイジ・デイ・フランチェ―ジ教会コンタレッリ礼拝堂)

『ホロフェルネウスの首を斬るユディト』に関する記事はこちら↓

『ナルキッソス』解説

ナルキッソスとは?

ナルキッソスとは川の神ケピソスと青い水のニンフ、レイリオペとの間に生まれた美男子です。

『ナルキッソス』(ジュラ・ベンルーツ作、1881年、ハンガリー国立美術館所蔵)

母がナルキッソスをテーバイの予言者、テイレシアスのもとに連れていくと、「己を知らないままでいれば長生きできる」と告げられます。

青年となったナルキッソスは美貌ときゃしゃな容姿によって男女問わず多くの者を惹き付けます。木霊のニンフ、エコーもカラヴァッジョに魅了された一人です。

実はこのエコー、自らのおしゃべりが災いして、苛ついたヘラに言葉を取り上げられてしまい、他人の言葉の最後部を復唱することしか出来ません。

ナルキッソスはそんなエコーを煩わしく感じ、徹底的に冷淡に扱います。その結果、エコーは報われぬ憧れと悲しみに押し潰され、肉体を失い声だけの存在となり、山の彼方からエコーを響かせることしか出来なくなってしまいました。

『エコーとナルキッソス』(ウォーターハウス、1903年、ウォーカー・アート・ギャラリー所蔵)

これを見ていた復讐の女神ネメシスが、無情な対応をしたナルキッソスを山の泉におびき寄せます。

水を飲もうとかがみこんだナルキッソスは、水面に映った美しい青年、つまり自分の顔をみて恋をしてしまいます。

『ナルキッソス』(Hubert Netzer作、1897年頃)

ナルキッソスは耽溺の状態に陥り、飲食を忘れ、憔悴し、やつれ、ついには息絶えてしまい、水仙の花となりました。

水仙が水辺にうつむきがちに咲くのはそのためだと言われています。

『ナルキッソス』解説

カラヴァッジョの『ナルキッソス』は静謐さに満ちていますが独創的な描写です。画面いっぱいのナルキッソスとその鏡像だけが配置してあり、神話画に必須のアトリビュート(人物を特定する持ち物)、カラヴァッジオの場合には水仙の花など、は何もありません。

『ナルキッソス』(1597-99年頃、バルベリーニ宮)

光り輝く膝の描写からは若さと肉体美がよく伝わってきます。スラッシュ入りズボンやベストの背中の色柄に洒落めいた自己愛もうかがえます。

水に映る鏡像を、カラヴァッジョは実像との完全なシンメトリーで描いています。現実にはあり得ないこの描きかたは恐らく構図上の計算でしょう。実像の両腕と水鏡の両腕がほぼきれいな丸い円を作っています。円は閉じられたもの、完璧さを示し、ナルキッソスの世界が一人で完結していることを表現していると考えられます。

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ここまでお疲れさまでした。良かったらお土産もご覧ください。

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参考文献

中野京子 名画の謎

『中野京子と読み解く 名画の謎 ギリシャ神話篇』(中野京子)

興味を持った方は是非読んでみて下さい!