ゴヤの『1808年5月3日の銃殺』を解説~プラド美術館所蔵

はじめに

今回はプラド美術館所蔵、フランシスコ・デ・ゴヤの『1808年5月3日の銃殺』を解説していきます。

プラド美術館とゴヤ像、Wikipediaより引用

『1808年5月3日の銃殺』解説

この作品は、5月2日に起こったフランス軍所属のエジプト人親衛隊との戦闘の後、つまり2日のよるからその翌朝に起こった悲劇を描いたものです。

『1808年5月3日の銃殺』(ゴヤ、1814年、プラド美術館所蔵)

反ナポレオン運動

ナポレオンの征服はフランス革命の自由と平等の精神を各諸国へと広めます。しかし、自由の精神が圧制への抵抗、他国支配からの脱却といった思想へと発展し、皮肉にも人々を反ナポレオン運動へと突き動かして行きます。

ドイツの哲学者フィヒテ
ナポレオン占領下のドイツにおいて『ドイツ国民に告ぐ』という演説で国民を鼓舞しました

ナポレオンの兄ジョセフが王位についたスペインでは1808年5月、反フランス運動が起こります。ナポレオンは鎮圧に成功したものの、これ以後、支配下の国々の民族意識に根差した抵抗運動に苦しめられることになります。

『5月2日、エジプト親衛隊との戦闘』(ゴヤ、1814年、プラド美術館所蔵)

『1808年5月3日の銃殺』解説

フランスへの圧政に対して反旗を翻した民衆、その結末を描いた作品です。まさにフランス軍が発砲しようとするその瞬間。白いシャツを着て両手を広げて抗議する人物を見ることが出来ます。

『1808年5月3日の銃殺』(ゴヤ、1814年、プラド美術館所蔵)
マネの『皇帝マクシミリアンの処刑』に影響を与えていると言われている作品ですが、こちらの方が演出の面では派手です。銃を構えるフランス軍の姿勢が前のめりで攻撃的な印象を与えます。白シャツの男性は覚悟を決め全身で全てを受け入れようとしているかの様にも見えます。

両手を広げる男性の手をよく見てみると傷のようなものが見えます。これはキリストが磔刑の際に受けた「聖痕」と呼ばれる傷で、殉教者としての証です。

与えた影響

偉大な作品というのは構成にも姿形を変え、受け継がれてゆくもの。「革命」が基本となっている西洋美術史の世界においても同様です。

スペインを頻繁に訪れ、ゴヤに傾倒していたマネの『皇帝マクシミリアンの処刑』、そしてピカソの『朝鮮戦争の虐殺』は本作品から影響をうけていると言われています。

『朝鮮戦争の虐殺』(ピカソ、1951年、パリ・ピカソ美術館所蔵)
兵士は殺人マシーンと同じとでも言いたいのでしょうか
左側にいるのが女性(妊婦)と子供が中心なのが一層暴力性を感じさせます

参考文献

『名画で読み解く「世界史」』(祝田秀全監修)

この記事は『名画で読み解く世界史』(祝田秀全監修)を参考にしています。

美術、世界史に関する知識をセットで学べるオススメの本です。世界史に興味がある方はもちろん、旅行好きの方にも読んでほしい一冊です。

『西洋美術101鑑賞ガイドブック』(神林恒道、新関伸也編)

非常に読みやすい本なので、興味を持った方は読んでみて下さい。