はじめに
今回は百人一首No.60『大江山いく野の道の遠ければまだふみもみず天の橋立』の作者、現代語訳、品詞分解などを含めた解説をしていきたいと思います。
『大江山いく野の道の遠ければまだふみもみず天の橋立』解説
「大江山」の読み方は?
「大江山」は「おほ(おお)えやま」と読みます。現在の京都市西北部に位置します。
作者は?
作者は小式部内侍(100?~1025)。百人一首No.56にも歌が収録されている和泉式部の娘です。関白藤原教道など多くの公卿たちに愛されましたが、若くして死去しました。
小式部内侍と定頼中納言の関係
子式部内侍と定頼中納言は因縁の関係にあると言えるでしょう。『金葉集』にそのエピソードが残されています。
子式部内侍の母、和泉式部が夫の保昌とともに、丹後国(京都北部)に赴いていたころ、子式部内侍が歌合に召されることになりました。
当時から優れた歌を残していた子式部内侍には、「実は和泉式部が彼女の代わりに歌を作っているのではないか?」という噂が立っていました。
そんな彼女の元に、藤原定頼(定頼中納言)がのこのこやってきて、「歌はどうなさいます。代作してもらうために、丹後へ人はおやりになったでしょうか。文を持った使者は帰ってきませんか」とからかいます。
そんな定頼に対し、子式部内侍は今回紹介する歌、「大江山いく野の道の遠ければまだふみもみず天の橋立」をすぐさま返すわけです。
自分からからかったにも関わらず、即興で非常に優れた歌を返された定頼はまんまと一本取られてしまいました。
こう書くと定頼がただのかませ犬のように見えますが、実は定頼も歌に関してはかなりの腕前で、彼の作った歌、「朝ぼらけ宇治の川霧たえだえにあらはれわたる瀬々の網代木」も百人一首のNo.64に収録されています。嫌に見える奴に実力があると何だかカッコよくなりますよね。
現代語訳
「大江山いく野の道の遠ければまだふみもみず天の橋立」の現代語訳は以下のようになります。
「大江山を超え、生野を通って行く丹後への道のりは遠いので、まだ天の橋立の地を踏んだこともなく、また、母からの手紙をみていません」
品詞分解・技法
①大江山
大江山…固有名詞
②いく野の道の
いく野…固有名詞、「生野」と「行く」の掛詞になっています
の…格助詞
道…名詞
の…格助詞
③遠ければ
遠けれ…形容詞ク活用已然形
ば…接続助詞
④まだふみもみず
まだ…副詞
ふみ…マ行四段活用連用形、「踏み」と「文」の掛詞。そして、「ふみ」は「橋」の縁語
み…マ行上一段未然形
ず…打消しの助動詞終止形
⑤天の橋立
天の橋立…固有名詞、体言止め
感想
子式部内侍の頭の回転の速さにただただ驚くばかり。掛詞を使って意味の通った歌を作るだけでも難しいのに、相手に対する応答として、さらには掛詞を二つも盛り込んで作ったとなると頭の性能の違いを感じざるを得ません。彼女が若くして亡くなってしまったというのも気になります。天才は寿命が短いのか?
参考文献
この記事は『シグマベスト 原色百人一首』(鈴木日出夫・山口慎一・依田泰)を参考にしています。
百人一首の現代語訳、品詞分解も載っています。勉強のお供に是非。