百人一首No.90『見せばやな』解説〜意味、品詞分解、句切れ、本歌取

はじめに

今回は百人一首のNo.90『見せばやな雄島のあまの袖だにもぬれにぞぬれし色はかはらず』の解説していきます。

『見せばやな雄島のあまの袖だにもぬれにぞぬれし色はかはらず』解説

作者は?

この歌の作者は殷富門院大輔(いんぷもんいんのたいふ)(1131?〜1200?)。藤原信成の娘です。

後白河天皇の皇女亮子内親王(殷富門院)に仕え、俊恵(百人一首No.85に歌が収録)の催した歌林苑で活躍。

俊恵

多作家としてしられ、「千首大輔」の異名を持ちました。

意味・現代語訳は?

『見せばやな雄島のあまの袖だにもぬれにぞぬれし色はかはらず』の意味は以下のようになります。

「血の涙で変わってしまった私の袖をお見せしたいものです。松島の雄島の漁師の袖でさえ、波に洗われて濡れに濡れてしまいました。色は変わりませんのに」

強烈なパッションを感じる歌です。実際にこんな歌を歌われる側に回ったらたまったものじゃありませんが、自分が辛い立場に回ったらこんな歌を歌いたくなる気持ちもよく分かる…。なんとも人生のやりきれなさを感じさせる歌です。

品詞分解(句切れ)は?

①見せばやな(句切れ)

見せ…サ行下二段活用の未然形

ばや…終助詞、願望の助詞です

な…終助詞、詠嘆の助詞です

ここまでで初句切れとなっています。

②雄島のあまの

雄島…名詞、陸奥の松島湾内の島の一つです

の…格助詞

あま…名詞、「あま」は漁師のことです

の…格助詞

松島

③袖だにも

袖…名詞

だに…副詞

も…係助詞

④ぬれにぞぬれし(句切れ)

ぬれ…ラ行下二段活用の連用形

に…格助詞

ぞ…係助詞

ぬれ…ラ行下二段活用の連用形

し…過去の助動詞の連体形

ここまでで四句切れです。

⑤色はかはらず

色…名詞

は…係助詞

かはら…ラ行四段活用の未然形

ず…打ち消しの助動詞の終止形

「漁師の袖は波に濡れても色は変わらないのに、私の袖は血の涙で赤くなってしまった」ということですね。

本歌取は?

この歌は、百人一首のNo.48源重之の『松島や雄島の磯のあさりせしあまの袖こそかくはぬれしか』を本歌として詠んだ、本歌取の歌です。

源重之

本歌取りとは、古い歌の表現の一部を意識的に取り入れて作歌する方法です。ここでは、「松島の雄島の漁師の袖は涙新嘗祭ひどく濡れた私の袖と同じようだ」という重之の歌を受けて、「私の袖は濡れただけじゃなくて、血のせいで色まで変わっちゃったよ」と上乗せしている形となっています。

参考文献

この記事は『シグマベスト 原色百人一首』(鈴木日出夫・山口慎一・依田泰)を参考にしています。


 

百人一首の現代語訳、品詞分解も載っています。勉強のお供に是非。