はじめに
今回は百人一首のNo.9『花の色は移りにけりないたづらに わが身世にふるながめせしまに』の作者、意味、そして掛詞や倒置法など用いられている用法を解説していきたいと思います。
『花の色は移りにけりないたづらに わが身世にふるながめせしまに』解説
作者は?
この歌の作者は小野小町です。
九世紀後半を生きた方で、六歌仙と呼ばれる当時の有名な歌人六人衆のうち唯一の女性と言われています。絶世の美人と伝えられながらもその経歴が未詳など、ミステリアスな面も相俟って現代でも人気の歌人です。
意味は?
この歌の歌意は、「桜の花はむなしく色あせてしまった。春の長雨が降っていた間に。私の容姿もすっかり衰えてしまった。生きていることのもの思いをしている間に」となります。
品詞分解は?
①花の色は
花…名詞
の…格助詞
色…名詞
は…格助詞
②うつりにけりな
うつり…ラ行四段活用連用形
に…完了の助動詞の連用形
けり…過去の助動詞の終止形
な…終助詞
③いたづらに
いたづらに…形容動詞ナリ活用の連用形
④わが身世にふる
わ…代名詞
が…格助詞
身…名詞
世…名詞
に…格助詞
ふる…ハ行下二段活用の連体形、「経る」と「降る」の掛詞です。
⑤ながめせしまに
ながめせ…サ行変格活用の連体形、「眺め」と「長雨」の掛詞です
し…過去の助動詞の連体形
ま…名詞
に…格助詞
掛詞は?
掛詞(かけことば)とは同じ音の二語を同時に使うことです。平たく言えばだじゃれです。
この歌には掛詞が二つ使われています。
まず一つ目は「ふる」。漢字にすると「経る(時が経つ)」と「降る」です。
二つ目が「ながめ」。こちらも漢字にすると「眺め(もの思い)」と「長雨」。
この二つの掛詞を使うことによって、「長い雨が降っている間に花が色あせてしまった世界」と「物思いに浸っている間に自分の容姿が衰えてしまった世界」の二つの世界をたったの31音の中に描き出すことに成功しているのですね。
倒置法
倒置法とは語の順序を意図的に入れ替えることによって、読み手の注意を喚起する用法です。
この歌では、「わが身世にふる」の部分と「ながめせしまに」の部分が倒置法となっています。
「物思いに浸っている間にわが身にも衰えがきた」というのが普通の語順ですが、ここでは「わが身にも衰えがきた。物思いに浸っている間に」となっています。
参考文献
この記事は『シグマベスト 原色百人一首』(鈴木日出夫・山口慎一・依田泰)を参考にしています。
百人一首の現代語訳、品詞分解も載っています。勉強のお供に是非。