ベラスケスの『ラス・メニーナス』を解説~濃すぎる「高潔さ」、スペインの衰退

はじめに

今回はプラド美術館所蔵、ディエゴ・ベラスケスの『ラス・メニーナス』について解説していきます。

自画像

『ラス・メニーナス』解説

私たちを見て…いる訳ではない

ベラスケスの最高傑作であり、後世画家たち、ゴヤ、ピカソ、マネらを魅了した「絵画の中の絵画」―『ラス・メニーナス(=宮廷の侍女たち)』は、ベラスケスの死の四年前に描かれました。

中央には小さなヒロイン、マルガリータ王女が、上品な佇まい。その世話をやくのは二人の侍女。ひとりはあやすように跪き、もう一人は、宮廷式のお辞儀をしています。

『ラス・メニーナス』(ベラスケス、1656年、プラド美術館所蔵)
画面右側にいるのは小人症の道化。当時スペイン宮廷にはこれら軟骨無形性症や超肥満体、巨人、黒人、阿呆といった「慰み者」や奴隷が数多くいたそうです
後に述べる近親相姦といいなんだかぶっ飛んでますね
※画面左で筆を持っているのはベラスケス本人

その後ろでは修道女が廷臣と会話をしています。さらにその背後のドアからは別の廷臣が出て行きかけたものの、こちらを振り返っているところです。

中央奥の四角い鏡の中に映っているのはフェリペ4世と王妃マリアナです。画家や侍女がこちらに目を向けているのは私たち鑑賞者を見ているからではなくてこの二人が入ってきたからなんですね。

この絵には様々な解釈があります。「画家が王女の肖像を描いている最中に突然国王夫妻がアトリエに現れた」「国王夫妻の肖像を描いているところへお供の者を引き連れて王女が現れた」「スペイン王国を正式に継ぐのはマルガリータ王女であるとアピールするための絵」などです。

濃すぎる血、跡継ぎ問題

最後の説がなぜ出てきたかというと、跡継ぎ問題が深刻化していたからです。

フェリペ4世には元々アンリ4世という妻がおり、息子ももうけていましたが、二人とも命を落とすという悲運に見舞われます。

『フェリペ4世』(ベラスケス、1656年、ロンドン・ナショナルギャラリー所蔵)
ベラスケスの作品ということもあるが、『ラス・メニーナス』の鏡に映っている人物そのもの。なんだか一癖も二癖もありそうな顔です。
「高貴な血筋」を保つため、姪と子供を作り続けます。現代では考えられません。

そこで再婚の相手として白羽の矢がたったのが、皇太子バルタザール・カルロスの婚約者だったマリアナ。つまり、姪です(カルロスも早世していました)。

そんな近親婚の中での出産は非常に厳しいもので、マリアナは4人の子を産みましたが、育ったのは一人だけでした。それがマルガリータです。

『青いドレスの少女』(ベラスケス、1659年、ウィーン美術史美術館所蔵)
マルガリータ王女。2019年10月から開催する「ハプスブルク展」にもやってきます

フェリペ4世の先妻、アンリ4世との間に生まれていたマリア・テレサはルイ14世のもとへ行くことが決まっていたので、スペインを継ぐのはマルガリータしかいませんでした。そのため、将来の女王を国内外へ認知させるため、ベラスケスの本作品が予告絵画として機能したという説が生まれました

王国の衰退

フェリペ4世はすでに51歳、これ以上の子作りは厳しいかと思われましたが、ここで奇跡が起きます。4世が最後の頑張りを見せ、マリアナが男児を産みます。この男児はカルロス2世と名付けられました。

『カルロス2世』
言われてみると父親に似ている気がします

ところがカルロス2世は決して跡継ぎが出来ない体であることが明らかとなり、次第にスペインは衰退していくこととなります。

マルガリータも22歳の若さでなくなってしまいます。それを思うと画面中で幼いながらも上品な仕草をしている彼女が何だか痛々しい。

参考文献

中野京子

この記事は『名画で読み解くハプスブルク家12の物語』(中野京子)を参考にしています。

ヨーロッパの表舞台で脚光を浴び続けてきたハプスブルク家。名画とともにその壮大な歴史をとくとご覧あれ。