能『井筒』解説〜あらすじ、見どころ

はじめに

今回は能『井筒』を解説していきます。

『井筒』解説

基本情報

作者

世阿弥

曲籍

三番目物

囃子

大小物

上演時間

約120分

曲名

「杜若」(観世・宝生・金春・金剛・喜多)

登場人物

前シテ

里女

後シテ

有常ノ娘

ワキ

旅僧

アイ

里人

あらすじ

謎の女性

ある僧が奈良国・初瀬の長谷寺へ詣でる途中、在原業平ゆかりの在原寺に立ち寄りました。すると、そこに女が現れます。彼女は数珠と手桶を持ち、古塚に水を手向け業平を弔い始めました。

女性の正体は…

僧は彼女に業平と縁があるのかと訪ねます。

彼女は「ない」と言いますが、古塚に昔を懐かしむ素振りを見せます。最終的には僧の求めに応じて「筒井筒」をめぐる業平と紀有常の娘との恋物語を語ります。そして、その娘こそ自分なのだと。

女性は自分の正体を明かした後、筒井筒の陰に消えます。

回向のススメ

里人が現れ、在原寺へ日参していることを述べます。僧が女性のことを話すと、業平と紀有常ノ娘の恋物語を語り、回向(えこう、読経・布施などで死者の冥福を祈ること)を勧めます。

その出会いは夢か現か

僧は有恒の娘との出会いを期待しながら苔のむしろで眠りにつきます。

すると、夢か現か、有恒ノ娘が、業平の形見の「冠直衣(かんむりのうし)」の姿で現れます。

女は業平が乗り移ったかのように舞います。井筒の中を覗き込んだ女は、水鏡に映った自分の姿に業平の幻影を見ます。

夜が明け、女性の姿は消えていきました。

見どころ

「筒井筒」とは、丸い井戸の竹垣のことで、『伊勢物語』にはその筒井筒の回りで無邪気に遊んでいた男女が愛で結ばれる逸話が収録されています。

そこで出てくる「井筒の女」、つまり紀ノ有恒の娘が霊として僧の前に現れ、業平の形見とともに、舞を踊るわけです。

何とも切なく幻想的な物語です。『葵上』では怒り+悲しみが底にありながらも結果的にカタルシスを得るわけですが、今回はただ悲しく、切ない。

今はパッションよりもセンチメンタルが欲しいという方にオススメの作品です。

参考文献

この記事は『これで眠くならない!能の名曲60選』(中村雅之著)を参考にしています。

観劇の前の予習にはもちろん、能を教養として知っておきたいけど敷居が高いと感じる方にも最初の一冊にオススメです。