ビアズリーの絵、『サロメ』を解説~生首だけじゃないんです

はじめに

今回はオスカー・ワイルドの『サロメ』の挿絵として描かれた、ビアズリーの『サロメ』を解説します。

ビアズリーの描いたオスカー・ワイルドの似顔絵、1914年、

ビアズリーとは?

オーブリー・ビアズリー(1872~98)はイギリスの画家

オスカー・ワイルドの『サロメ』を担当したのは21歳のとき。保守派からは酷評されたものの「ビアズリーの時代」と呼ばれるほどの人気を博しました。

『サロメ』解説

サロメとは?

昔、ヨハネという聖人がいたのですが、ヘロデ王の近親婚を批判し捕らわれてしまいます。とはいえ民衆からの人気はあったため、ヘロデ王も中々処刑できずに困っていました。

ある晩のパーティ、ヘロデは妻ヘロディアスの娘にダンスを踊るように求めます。そこで踊った娘があまりに美しかったため、ヘロデは何でも褒美をやろうと言い出します。

『サロメ』(シュトゥック、1906年、レーン・バッハ・ハウス)

娘は母であるヘロディアスに何を貰うべきか相談、ヘロディアスは「ヨハネの首」と即答します

世間体もありヨハネを処刑しにくかったヘロデですが、一度何でもやるといったからには断れません。ヨハネの首を切ります

このエピソードに出てきた踊り子、つまりへロディアの娘というのがサロメと呼ばれる女性ですね

オスカー・ワイルドの「サロメ」

オスカーワイルドの描いたサロメは少し異なります。

ヨハネは牢獄に閉じ込められています。一方のサロメはヘロデ王から好色な目を向けられており不快感を感じています。そんなサロメはヘロデ王から逃げてきて偶然閉じ込められているヨハネと出会います

ヨハネとサロメ

サロメは気まぐれでヨハネを誘惑しますが全く相手にされず。逃げられると追いたくなる心理でサロメは卑猥な言葉を投げかけますが聖人ヨハネには効きません。

その後サロメがダンスをするのは同じなのですが、ヘロデが褒美を申し出たときにサロメは母からの要求ではなく自らヨハネの首を要求します

サロメは皿の上に乗せられたヨハネの生首にうっとりとした表情でみとれ憑かれたようにキスを浴びせます。その狂気じみた行動にドンびきしたヘロデ王はサロメも殺してしまいました。

『サロメ』解説

ぐったりとしたサロメ。ちょうど今彼女が埋葬される瞬間を描いた作品であり、『サロメ』の最後に載せられた絵です。棺の側面にFINの文字が見えます。サロメと言えば生首というイメージなだけに本作は珍しいですよね。

『サロメ』(ビアズリー、ブリストン大学図書館など)
なんか色々面白すぎる一枚。サロメパンチパーマ?

彼女を持っているなにやらやばいモンスターらしきものは右側にいるのがサテュロス。好色な森の神で山羊の脚を持ちます。山羊髭と尖った耳が特徴。サテュロスは「淫乱」の象徴です。左側にいるチリチリパーマのマル頭はマスクをつけています。マスクは「虚栄」の象徴

ヘロデ王からストーカーされていたのに相手の想像の範疇を超えたとたんお役御免になり殺されてしまったサロメ。まあ生首に接吻というのは確かにおぞましいですが…。生きることの難しさを感じさせる一枚です。

参考文献

この記事は『怖い絵 泣く女篇』(中野京子)を参考にしています。

美術に興味ある方は是非。