ブリューゲルの『死の勝利』を解説~無慈悲なペスト

はじめに

今回はプラド美術館所蔵、ピーター・ブリューゲル(父)の『死の勝利』について解説していきます。

プラド美術館、Wikipediaより引用

『死の勝利』解説

本作品には、国王、傭兵、恋人たちなど、多様な階層の人々が描かれています。当時、ユーラシア大陸はモンゴル帝国の支配下にあり、東西を結ぶ交易が盛んになっていた時期でした。ペスト菌は中央アジアからイタリアのシチリア島へ上陸し、ノミの媒介によってイタリア半島へ至りヨーロッパ中へ広まったと言われています。

『死の勝利』(ブリューゲル、1572年、プラド美術館所蔵)
死は平等、誰にでも訪れる。抗う術はありません。
ドラマチックルーベンスのようなドラマチックさがない分、粛々と蔓延していくペストの恐ろしさが伝わってきます。

黒い死体となって息絶えることから「黒死病」と恐れられましたが、致命的なことに医学知識はほとんどなく、膏薬を塗って治療しようとする有り様でした。その結果、ヨーロッパの全人口の三分の一が命を落としたと言われています。

この大量死は社会構造の混乱と価値観の変化をもたらしました。多くの人が亡くなったため農村人口は激減、生産システムは崩壊。

『死の勝利』(15世紀中ごろ、シチリア州立美術館所蔵)
猛威をふるう骸骨
派手さがない分無慈悲さが際立ちます

領主は労働力不足を補うために地代を軽減したり、農民の土地売買を認めたりするなど対策をとります。その結果、少額の地代を納めるだけの自由な独立自営農民が多くなり、ヨーロッパの領主は地主化し、衰退。ペストの流行によって、農業生産などの「もの」の価値から、お金が重視される貨幣経済への以降が加速させました。

『死の勝利』(ヤン・ブリューゲル(ブリューゲルの息子です)の複製、1597年、ヨアネウム州立博物館所蔵)
お父さんのものよりも幻想的な雰囲気が漂っています

参考文献

この記事は『名画で読み解く世界史』(祝田秀全監修)を参考にしています。

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