はじめに
今回は百人一首No.16『たち別れいなばの山の峰に生ふるまつとし聞かば今帰り来む』の解説をしていきたいと思います。
『たち別れいなばの山の峰に生ふるまつとし聞かば今帰り来む』解説
作者は?
この歌の作者は中納言行平、在原行平です(818〜893)。
彼が須磨に配流された際の、松風・村雨姉妹との恋の伝説は、謡曲『松風』の題材になりました。
ちなみに行平は、『伊勢物語』でも知られる在原業平の異母兄です。
読み方は?
『たち別れいなばの山の峰に生ふるまつとし聞かば今帰り来む』は「たちわかれ いなばのやまの みねにおうる まつとしきかば いまかえりこむ」と読みます。
意味・現代語訳は?
『たち別れいなばの山の峰に生ふるまつとし聞かば今帰り来む』の意味は以下のようになります。
「別れて因幡国へ去ったとしても、因幡の稲羽山の峰に生えている松ではないが、あなたが待っていると聞いたならば、すぐ帰ってこよう」
背景
作者が因幡国の地方官として赴任するのに際して、都の人々と別れを惜しんで詠まれた歌です。
前半部分で「別れ」や「いなば」(去っても)(因幡)という言葉で遠くの情景を想像させつつ、後半部分で「帰ってこよう」と強い意思を感じさせる言葉を使うことで、より一層別れの悲壮感、切なさを強調しています。
品詞分解は(掛詞)?
①たち別れ
たち別れ…ラ行下二段活用の連用形
②いなばの山の
いなば…「稲羽」と「住なば」の掛詞。
の…格助詞
山…名詞、「稲羽の山」とは因幡の国庁近くにある稲羽山のこと
の…格助詞
③峰に生ふる
峰…名詞
に…格助詞
生ふる…ハ行上二段活用の連体形
④まつとし聞かば
まつ…「松」と「待つ」の掛詞
と…格助詞
し…副助詞
聞か…カ行四段活用の未然形
ば…接続助詞
⑤今帰り来む
今…副詞
帰り来…カ行変格活用の未然形
む…意思の助動詞の終止形
参考文献
この記事は『シグマベスト 原色百人一首』(鈴木日出夫・山口慎一・依田泰)を参考にしています。
百人一首の現代語訳、品詞分解も載っています。勉強のお供に是非。