はじめに
今回は京都高山寺の『鳥獣人物戯画』を解説していきます。
『鳥獣人物戯画』解説
甲巻
甲巻とは全四巻のうちの第一巻のことです。一般に「鳥獣戯画」として知られるのは第一巻(つまり甲巻)です。ちなみに第二巻(乙巻)には現実の獣や鳥、空想の龍や獏などの動物の生態の写生、第三巻と第四巻は擬人化された鳥獣に加えて、主として僧侶や俗人の戯画、当時の遊戯や勝負事、行事の情景などが描かれています。
下の甲巻の絵を見てみましょう。兎と蛙が相撲を取っています。その周囲に萩やすすき、女郎花といった草花が咲いているところをみると、季節は秋です。毎年旧暦7月には宮中の年中行事として相撲節(すまいせち)がおこなわれていました。しょこくから相撲人(すまいびと)が召され、その取り組みを天皇が観戦しました。この絵はその催しのパロディだと考えられます。
見事な墨の濃淡による表現と軽妙洒脱な筆づかいが鑑賞者の目を惹き付けます。画面上部には川の堤が描かれており、岸辺には芦や沢瀉(おもだか)が描き添えられ画面を引き締めています。
甲巻は猿と兎が谷川で水遊びする場面から始まって、賭弓、田楽、相撲、法会などで擬人化された猿、兎、狐、蛙などが戯れる場面が描かれています。おそらく当時の世相を面白おかしく風刺したものだと考えられますが、具体的なものは分かっていませんが、僧侶の姿で登場する猿が社会的な権威の象徴で、兎や蛙は一般の庶民を表しているようです。
作者は?
作者は不詳ですが、鳥羽僧正覚猷の筆と伝えられています。鳥羽僧正は説話集『今昔物語集』の編者に擬せられている源隆国の子で、早くから僧籍に入り大僧正の位を得ている高僧です。山城国鳥羽荘の証金剛院にいたことから鳥羽僧正と呼ばれました。
参考文献
『日本美術101鑑賞ガイドブック』
この記事は『日本美術101鑑賞ガイドブック』(神林恒道 新関伸也編)を参考にしています。
日本美術に興味を持って方は気軽に読んでみて下さい。