レオナルド・ダ・ヴィンチの『受胎告知』を解説~無表情の美

はじめに

今回はウフィツィ美術館所蔵、レオナルドダ・ヴィンチの『受胎告知』について解説していきます。

レオナルド・ダ・ヴィンチとは?

レオナルド・ダ・ヴィンチとは?

レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452~1519) は、イタリアのルネサンス期を代表する芸術家です。フルネームはレオナルド・ディ・セル・ピエーロ・ダ・ヴィンチ

音楽、建築、数学、幾何学、解剖学、生理学、動植物学、天文学、気象学、地質学、地理学、物理学、光学、力学、土木工学など様々な分野に顕著な業績と手稿を残したため、万能人と呼ばれています

人体解剖

万能人ダ・ヴィンチの興味はつまるところ自然を観察することで、人間とは何か、そして、神とは何かを知ろうとすることでした。

ダ・ヴィンチが知ろうとした神は、いわゆるキリスト教的な神ではなく、森羅万象を司る宇宙法則のようなものでした。その背景にはそれまで絶対的なものであった教会の権威が、十字軍遠征の失敗やペストの流行などで揺らぎ始めたところがあります

ダ・ヴィンチは宗教を超えて人体研究のための解剖学にものめり込むなど、様々なタブーに挑みます。極めて科学的人物だったと言うことが出来るでしょう。

『ウィトルウィウス的人体図』(1487年頃、ヴェネチアアカデミア美術館所蔵)

作品

ダ・ヴィンチの代表作を紹介していきます。

モナ・リザ

西洋絵画において、背景をイメージとして描く手法や、やや斜に構えたポーズなど、肖像画の基本はすべて『モナ・リザ』から始まったと述べています

『モナ・リザ』(1503~06年頃、ルーブル美術館所蔵)

さらに、 点描をぼかして描くことで輪郭線を使わずに人物を描くスフマートと呼ばれる技術も、後世に受け継がれているそうで、その影響力の大きさが窺われます。

最後の晩餐

キリストが12人の弟子に対し「この中に私を裏切る者がいる」と予言した晩餐の一幕。

『最後の晩餐』(1495〜1498年、サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会 )

『受胎告知』解説

『受胎告知』解説

「受胎告知」は数多くの画家により描かれてきた『新約聖書』の一場面です。大天使ガブリエルが聖母マリアに神の子を授かったことを告知するシーン。

『受胎告知』(1475〜1485,ウフィツィ美術館所蔵、師アンドレア・デル・ヴェロッキオとの共同作)

たいていの画家は、この突然の告知に聖母が内心とても驚いているような表情を描きますが、ダ・ヴィンチによる聖母は両手の微妙な表情に驚きが表れているだけと他とは違った演出をしています

背景の空気遠近法とスフマート技法以前の緻密な描写、人物の動きのしなやかさなど、ダ・ヴィンチ特有の描写にも注目です

受胎告知の比較

ダ・ヴィンチ以前

シモーネ・マルティーニ、1333年、ウフィツィ美術館所蔵
フラ・アンジェリコ、1433年頃、ディオチェザーノ美術館所蔵
フィリッポ・リッピ、1443年、アルテ・ピナコテーク所蔵

表情豊か、とまでは行きませんが、ダ・ヴィンチのものよりはどの聖母もリアクションがあると言えるかもしれません。

ダ・ヴィンチ以後

ヤン・デ・ビア、1520年、ティッセン=ボルネミッサ美術館所蔵
ティントレット、1582-87年、サンロッコ同信会館
エル・グレコ、16世紀末、大原美術館所蔵

時代を経ることに表現が多彩になり、リアクションも多様化していくのは面白いですね。

参考文献

画家大友義博

『一生に一度は見たい西洋絵画 BEST100』(大友義博)

美術に苦手意識がある人はこの本から読みましょう。

東京藝術大学 秋元雄史

『武器になる知的教養 西洋美術鑑賞』(秋元雄史)

西洋美術の知識が少ない人はまずこの本から読みましょう。

東京藝術大学 布施英利

『パリの美術館で美を学ぶ ルーブルから南仏まで』(布施英利)

パリの美術館に所蔵してある作品を基にフランス美術を解説。パリに行く人は読んでおきましょう。

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