目次
はじめに
今回は百人一首No91『きりぎりす鳴くや霜夜のさむしろに衣かたしきひとりかとも寝む』を解説していきます。
『きりぎりす鳴くや霜夜のさむしろに衣かたしきひとりかとも寝む』解説
作者は?
この歌の作者は後京極摂政前太政大臣(ごきょうごくせっしょうさきのだじょうだいじん)(1169〜1206)。藤原良基(ふじわらのよしつね)です。
摂政・太政大臣になりましたが、三十八歳で急死しました。
読み方は?
この歌の読み方は、「きりぎりすなくやしもよのさむしろにころもかたしきひとりかもねむ」となります。
意味・現代語訳は?
『きりぎりす鳴くや霜夜のさむしろに衣かたしきひとりかとも寝む』の意味は以下のようになります。
「こおろぎの鳴く、霜のおりる寒い夜、むしろの上に衣の片方の袖を敷いて、私はひとり寂しく寝るのであろうか」
冒頭の「きりぎりす」とは今の「こおろぎ」のことで、「むしろ」は藁や菅(すげ)などで編んだ粗末な敷物のこと。これらの舞台装置が「衣かたしき」、つまり一人寝、秋の寂しい一人寝の様子を際立たせています。
品詞分解は?
①きりぎりす
きりぎりす…名詞
②鳴くや霜夜の
鳴く…カ行四段活用の連体形
や…間投助詞
霜夜…名詞
の…格助詞
霜夜は晩秋の霜のおりる寒い夜
③さむしろに
さむしろ…名詞、「さ」は接頭語
に…格助詞
④衣かたしき
衣…名詞
かたしき…カ行四段活用の連用形
「衣かたしき」は自分の衣の片袖を下に敷くことで、ひとり寝のこと
⑤ひとりかも寝む
ひとり…名詞
か…係助詞
も…係助詞
寝…ナ行下二段活用の未然形
む…推量の助動詞の連体形、「か」を受けて連体形になっている
掛詞は?
この歌では「さむしろ」が「寒し」と「さ+むしろ」の掛詞となっています。音だけでなく、「寒い中粗末な敷物の上で寝る」というふうに意味も有機的に結びついているのが秀逸です。
本歌取りは?
この歌は『さむしろにころもかたしき今宵もやわれを待つらむ宇治の橋姫』(『古今集』恋四・六八九)と百人一首No3『あしびきの山鳥の尾のしだり尾のながながし夜をひとりかも寝む』二首をふまえた、本歌取りの歌となっています。万葉集の『我が恋ふる妹は逢はさず玉の裏に衣片敷きひとりかも寝む』によっているとも考えられています。
参考文献
この記事は『シグマベスト 原色百人一首』(鈴木日出夫・山口慎一・依田泰)を参考にしています。
百人一首の現代語訳、品詞分解も載っています。勉強のお供に是非。