目次
はじめに
今回は百人一首No75『契りおきしさせもが露を命にてあはれ今年の秋もいぬめり』を解説していきます。
『契りおきしさせもが露を命にてあはれ今年の秋もいぬめり』解説
作者は?
この歌の作者は藤原基俊(ふじわらのもととし)(1060〜1142)。
源俊頼(No74)と並ぶ院政期歌壇の中心人物で、俊頼が革新的な歌風であったのに対し、基俊は伝統的で保守的な歌風が特徴でした。
意味・現代語訳は?
『契りおきしさせもが露を命にてあはれ今年の秋もいぬめり』の意味・現代語訳は以下のようになります。
「お約束してくださいました「私を頼みにせよ」という恵みのようなお言葉を命とも頼んできましたが、ああ、今年の秋もむなしく過ぎ去っていくようです」
品詞分解は?
①契りおきし
契おき…カ行四段活用の連用形、約束しておいた、という意味です
し…過去の助動詞の連体形
②させもが露を
させも…名詞、さしも草のことです(「背景」を参照)
が…格助詞
露…名詞
を…格助詞
③命にて
命…名詞
に…断定の助動詞の連用形
て…接続助詞
④あはれ今年の
あはれ…感動詞
今年…名詞
の…格助詞
⑤秋もいぬめり
秋…名詞
も…係助詞
いぬ…ナ行変格活用の終止形
めり…推量の助動詞の終止形
縁語は?
「契りおきし」の「おき」が、「露」の縁語となっています。
背景
この歌の作者の興福寺にいた子息の光角が名誉ある維摩絵の講師(仏典の講義をする僧)になることを、その任命者である藤原忠通(No76)に懇願していました。
それに対し、忠通は清水観音の歌とされる「なほ頼めしめぢが原のさせも草わが世の中にあらむ限りは」(私を頼みにし続けよ。たとえあなたがしめじが原のさせも草のように胸をこがして思い悩むことがあっても)の一句を引いて「しめぢが原の」と答えました。
これは言外に「なほ頼め」がこめられています。それなのに願いは叶わず、作者である基俊も忠通がやったように清水観音の歌の「させも」を引いて歌を読んだわけですね。
参考文献
この記事は『シグマベスト 原色百人一首』(鈴木日出夫・山口慎一・依田泰)を参考にしています。
百人一首の現代語訳、品詞分解も載っています。勉強のお供に是非。