能『葵上』解説〜ストーリー、見どころ

はじめに

今回は能『葵上』を解説していきます。

『葵上』解説

基本情報

作者

不明

曲籍

四番目物

囃子

太鼓物

上演時間

約55分

曲名

「葵上」

登場人物

前シテ

「シテ」とは能の中で中心になる役のことです。前半と後半からなる曲では、前半のシテが「前シテ」、後半のシテが「後シテ」となります。

『葵上』の前シテは六条御息所ノ生霊です。

後シテ

六条ノ御息所の生霊

ツレ

ツレはシテの次に重要な役です。二人以上の場合もあります。

『葵上』のツレは巫女です。

ワキ

僧侶・神職などが多く、生きているダンセなので能面はつけません。

『葵上』のワキは横川小聖。

ワキツレ

従僧や従者など、ワキに従う役です。

『葵上』のワキツレは臣下。

アイ

前半に前シテが舞台から下がったときなどに前半のあらすじを語ってくれる人物。

『葵上』のアイは下人。

ストーリー

始まり

舞台は左大臣の屋敷。

源氏の正妻葵上は、原因不明の病に侵され、父である左大臣の屋敷の自室で伏せています。高僧の祈祷や様々な治療がなされましたが回復の兆しが見られません。

悪霊の存在を疑った朱雀院の臣下は、「梓の法」の名手として知られる照日の巫女を呼び、弓の弦の響く音で霊を呼び出させようとします。

六条御息所ノ霊登場

照日の巫女が「梓の法」を試みると、傷んだ車に乗って高貴な女性が現れます。彼女は世の辛さや人への恨みをつぶやくように語ります。朱雀院の臣下は、誰であるか推測は付いていると前置きをした上で、名を名乗るように彼女に言います。すると、彼女は「六条御息所ノ霊」だと答えます。

彼女は続いて、皇太子妃として栄華を誇っていたものの、夫に先立たれ、その後は光源氏と親しくなり心を癒やしていたものの、最近は彼も来てくれず寂しさを紛らわせずにいると嘆きます。

そして、その原因となったとして葵上への恨みが尽きないことを述べ、「破れ車に乗せ、連れ去ろう」と言い残して姿を消します。

葵上の容態の急変

六条ノ御息所霊は姿を消しましたが、葵上の病状は急変。朱雀院の臣下は回復を祈祷してもらうため、比叡山の横川小聖を呼び寄せることにして使いを出します。

横川小聖登場

横川小聖は特別な祈りの最中でしたが、左大臣家からの使いであるため頼みは断れません。下人を一足先に返します。

激突、結末

左大臣の屋敷に着いた横川小聖が懸命に祈祷を始めると鬼の姿となった六条御息所ノ霊が姿を現します。

激しい戦いを繰り広げる二人。祈りの効果で、六条御息所ノ霊は和み、救済のための菩薩も現れ、遂に成仏して消えていきます。

見どころ

面白いのはタイトルにもなっている葵上が登場しないこと。舞台上に置かれた一枚の小袖が、病に伏している葵上を現していることになっています。

六条御息所ノ霊の変わりようも見どころの一つ。前シテと後シテで面が鬼の面となるのが怖い。ラストの横川小聖と六条御息所ノ霊の戦いも瞬き厳禁です。

参考文献

この記事は『これで眠くならない!能の名曲60選』(中村雅之著)を参考にしています。


 

 

観劇の前の予習にはもちろん、能を教養として知っておきたいけど敷居が高いと感じる方にも最初の一冊にオススメです。

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