カミーユ・コローの作品解説~『オルフェウス』の神話

はじめに

今回はヒューストン美術館所蔵、カミーユ・コローの『オルフェウス』を解説していきます。

ヒューストン美術館、Wikipediaより引用

カミーユ・コローとは?

カミーユ・コローとは?

カミーユ・コロー(1796〜1875)は、19世紀最大の風景画家の一人。

裕福な家に育ち、絵を売る苦労もなく、好きなものだけを描き、三度もイタリアへ修業に行くなど、恵まれた人生を送りました。

『冥界からエウリディケを連れ出すオルフェウス』解説

オルフェウスとエウリディケ

オルフェウスはアポロンの落しだねともいわれ、竪琴の名手でもありました。彼が演奏すると人や獣ばかりか、樹や岩さえ恍惚となったほど

パレルモ博物館所蔵

ある日愛妻エウリディケが毒蛇に噛まれて死んでしまいますが、冥界の王ハデスをも音楽で魅了し、彼女を返してもらえることになりました。

ビザンチン博物館所蔵

ただし、ハデスはこの時「決してエウリディケを振り向いてはならない」とオルフェウスに条件をつけます。

オルフェウスはそれに従っていましたが、出口付近で急に不安になり、思わず振り返ってしまいます

『オルフェウスとエウリディケ』(フェデリーゴ・チェルベッリ作)

すると、エウリディケはずるずると死者の国へと引き戻されてしまいました。

『オルフェウスとエウリディケ』(1806年、ニイ・カールスベルグ・グリプトテク美術館)

『冥界からエウリディケを連れ出すオルフェウス』解説

コローの本作品は、そんなオルフェウスの悲劇を描いています。

月桂樹をかぶったオルフェウスが竪琴を高々とかかげながら意気揚々と妻の手を引いており、振り向くようすを感じさせないからか違和感があります。おそらく画家が描きたかったのは夫による妻奪還シーンというよりも、神話を借りたこの世ならぬ風景だったと考えられます。

『冥界からエウリディケを連れ出すオルフェウス』(1861年、ヒューストン美術館所蔵)

一見、穏やかで美しい沼地の林は、リアルな写生のようですが、目を凝らすと背景の木々の間に淡い影のような消え入りそうな亡者が蠢いています。生きた気配の欠落した異様な静寂はねっとりとした重さを持ち、エウリディケもまた魂の抜けた人形のように喜ぶでも悲しむでもなく、ただ夫に引かれて歩を進めています。

参考文献

中野京子 名画の謎

『中野京子と読み解く 名画の謎 ギリシャ神話篇』(中野京子)

興味を持った方は是非読んでみて下さい!

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