ルノワール、『シャルパンティエ夫人と子どもたち』を解説~両者の命運はいかに

はじめに

今回はニューヨークメトロポリタン美術館所蔵mピエール=オーギュスト・ルノワール(1841~1919)の『シャルパンティエ夫人と子どもたち』を解説していきます。

メトロポリタン美術館内、Wikipediaより引用

ルノワールとは?

ルノワールはモネと共に印象派を代表する画家です。幸せに満ちた人物画を多く描いたことから「幸福の画家」とも呼ばれます。

モネや印象派についてはこちらで詳しく解説しています↓

代表作

世界史の教科書のやつ

『ぶらんこ』(ルノワール、1876年、オルセー美術館)
世界史の教科書に載ってるやつです。

ピアノ

『ピアノに寄る少女達』(ルノワール、1892年、オルセー美術館)
同モチーフのものがオランジェリー美術館にも所蔵してあり、そちらは横浜美術館で開催されたルノワール展に来日。ルノワール絵画の完成形です。

『シャルパンティエ夫人と子どもたち』解説

逆境の印象派、それでも…

ルノワールが生きていた時代、歴史的な場面や聖書、神話をモチーフにした古典的な絵画が好まれており印象派への風当たりは依然として強烈でした。日本でも人気の作品、モネの『印象、日の出』が痛烈に批判されたのは有名なエピソードです。

『印象、日の出』(モネ、1872年、マルモッタン美術館)

そんな中でも比較的早く世の中に出ることができたのがルノワールであり、そのきっかけとなったのが三十七歳で制作したこの『シャンパルティエ夫人と子どもたち』です。

「幸福の画家」ルノワール

家具調度は流行の東洋趣味にあふれ、浮世絵や屏風、中国製らしき陶磁器、竹素材の椅子とテーブルなどが部屋を彩ります。子どもの足元にいる大型犬はステイタスシンボルでした。シャルパンティエ夫人のドレスは当時の最新流行の黒、素晴らしい仕立てのオクトチュールです。パリ社交界の花形だった彼女ですが、ルノワールによって子どもたちに慈愛の目をむける母性愛あふれるお母さんとして描かれています。

『シャルパンティエ夫人と子どもたち』(ルノワール、1878年、メトロポリタン美術館)

子どもたちの表情含め幸せに満ちたこの絵、まさにルノワールならではと言えそうです。

姉妹?いいえ、姉弟です

「この絵には何が描かれていますか?」と聞かれたらほとんどの人は「幸せそうな家族、母親と娘二人」と答えると思うのですが、実は真ん中にいる子は男の子。

何世紀も昔から男児は三、四歳ころまでは階級に関わりなく少女服を着せて育てるという風習が続いていました。これはおそらく女児よりも男児の死亡率が高いことが知られていたためによる魔除けの意味合いであると考えられています。

ルノワールにこの絵を描くよう依頼したのはパリの出版業者にして美術収集家のジョルジュ・シャルパンティエ。当時32歳。妻マルグリットは30歳、姉ジョットは6歳、弟ポールは3歳でした。

両者の命運はいかに

ルノワールの絵にシャルパンティエ夫妻は大喜び。この絵は印象派展ではなく通常の官展に入選し、会場の目立つ場所にも飾られることになりました。強力な後ろ盾を得たルノワールは世の中に認められていきます。

出世したルノワール、ブルジョワジーとしての生活を満喫し肖像画素晴らしい肖像画まで描いてもらった夫妻、両者ウィンウィンでめでたしめでたし…とならないのが難しいところ。

盛者必衰、栄枯盛衰、この絵が描かれたほんの数年後、1880年代に入った途端魚席が急速に悪化。資金難のため土地やコレクションの一部を売却してようやく会社買収からのがれるという苦境に立たされます。

幸い、1885年にエミールゾラの『ジェルミナール』が刊行されたことで息が続いたものの、2年後には共同経営者化、飲み込まれてしまいます。

嫌なことは立て続けに起こるといったもので、後継ぎになるはずだった少女服の少年ポールは兵役期間中にチフスにかかりこの世を去ります。

その後、ジョルジュは引退、出版業界からシャンパルティエの名は消えてしまいます。1907年には両親ともに亡くなり、絵の左端にいた女の子、ジョルジェット、後に生まれた次女は両親のコレクションの大分部分を競売にかけることとなりました。

思えばルノワールがあの絵を描いた頃が両者の幸福曲線が一致していた時期なのでしょう。出世街道を突き進んだルノワール、「幸福な」肖像画を描かれた直後に没落したシャルパンティエ一家。生き残った娘は何を思う…

『座るジョルジェット・シャルパンティエ嬢』(ルノワール、1876年、ブリヂストン美術館東京)

参考文献

この記事は『中野京子と読み解く 運命の絵』(中野京子 2017 文藝春秋)を参考にしています。

興味を持った方は手に取ってみて下さい!

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